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清く正しくない恋愛作法
清く正しくない


【彼と彼女の曖昧な関係−冥加×かなで−より抜粋】




 冥加の部屋はライトアップされた遊園地を見下ろす位置
にある。煌びやかな夜景には、いつも目を奪われてしまう。
 だが、今は夜景を楽しむ余裕などなかった。
「こんな寒空のしたで、なにをしていた。お前は演奏家で
ある自覚はあるのか」
 帰ろうとするのを強引に引き留められ、さらにはソファー
に座らされてしまった。
 居たたまれない。一方的に恋人関係だと誤解していた間
違いに気づいたばかりだというのに、その相手に優しくさ
れるなんて。
 温かい紅茶を差し出され、冥加と瞳を合わせられないま
ま受け取った。
「ありがとう……」
 気づけば、手がカタカタと震えてしまっていた。
 思っていた以上に寒さが堪えていたらしい。
「こんな時間に若い女がひとりでうろつくなど、正気とは
思えん。襲ってくれと言っているようなものだ」
 どうやら冥加は、かなでが震えている理由を、男たちに
怯えたせいだと思っているらしい。確かに彼らに囲まれて
いたときは恐ろしかったが、その後、冥加に胸を貸しても
らえたおかげで落ち着くことができていた。
 今は手がかじかんでしまっているだけだ。
「……大丈夫だから……」
 平気だと伝えるために、無理に笑顔を浮かべようとした
が、泣きそうになり顔を歪めてしまう。
「おい、小日向」
 焦った様子で冥加は、かなでを見下ろしてくる。これで
はますます怯えているみたいだ。しかし、焦れば焦るほど、
しゃくり上げそうになった。
「また胸を貸せばいいのか? だが、今夜は枝織がいない。
そういうわけにも……」
 言い淀む冥加の制服の裾をキュッと掴むと、彼は溜息を
吐いて、隣に座ってくれた。
「落ち着いたら、すぐに離れろ」
 冥加がその言葉を言い終える前に、かなでは彼の肩口に
しがみついた。
 まだもう少しだけ、冥加の傍にいられる。そう思うと、
抱きしめる手に力が入ってしまって、離れることができな
かった。
「……小日向……っ」



        ......Coming Soon 【清く正しくない恋愛作法】





author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 15:58
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こんばんおおかずなあに?
こんばんの


【SweetSyrop*BitterTrap
               −シュウ×ユイ−より抜粋】


 
 
 
 ――ほんの少し好奇心が湧いたのが間違いだった。
 逆巻家にお世話になっている小森ユイは、与えられてい
る自室で、お風呂上りにテレビをつけた。そこで、異国の
男女が浜辺で夕陽を受けて、熱い口づけを交わしているシー
ンを目にした。
(……羨ましい……)
 チャンネルを変えることもせず、ユイは見入ってしまう。
 高校生になるまで、ユイには恋人ができたことはなかっ
た。最近では、逆巻家の兄弟たちに翻弄されるばかりで、
恋をする余裕などない。テレビのなかのふたりのように、
愛し合う相手がいれば、今のように辛い生活から抜けられ
たのだろか?
 ユイはそっと自分の首元に手をあてた。バスルームの鏡
に映っていた自分の肌を思い出してしまったからだ。
 牙の痕が無数についた無残な肌。逆巻家の兄弟たちは、
居候であるユイに辛辣にあたる。
 そのなかでも、長男のシュウは、遠慮がなかった。
 最初にユイが逆巻家にやって来た際、ヴァンパイアであ
る彼らに血を吸われそうになり、苦し紛れにいった言葉の
せいだ。
『血を吸われる人くらいは、自分で選びたいの』
 だから、彼らのなかで一番、まともそうな……やる気が
なさそうなシュウを選んだ。
 彼は驚くほど自堕落な人だった。雨の中でびしょ濡れに
なりながら、眠りを貪り、冷たい床のうえでも平然と、身
体を横たえていた。そんな彼が放っておけなくて、ユイは
ついつい構ってしまうのだが、その隙をついてシュウは肌
に牙を立ててくるのだ。
 血を吸われるのは、痛いし、怖い。できることなら、回
避したいと心から思っている。それなのに、シュウの青い
瞳見つめられ、牙を立てられると、甘い疼きに血を滾らせ
ながら身を任せてしまう。
 初めての口づけも、当然のように彼に奪われた。ユイの
すべては、シュウのものであるかのように。いつしか、口
づけと同じように、恍惚に震える身体を貫かれ、処女を奪
われるのではないかと不安になる。相手は自分を餌としか、
思っていないような人だというのに――。
「はぁ……」
 溜息を吐きながら、ぼんやりとテレビを見ていると、雨
の吹きかかる窓ガラスに、鮮血が飛び散る映像が流れる。
「……ひ……っ」
 どうやら番組はホラー映画だったらしい。濃密なキスシー
ンのせいで、恋愛映画だと思い込んでしまっていた。
 怖いものは苦手だ。チャンネルを変えたくなる。だが、
続きが気になってしまって、変えることができない。
「どうしよう……」
 悩みながらもユイは結局、ホラー映画を最後まで見続け
てしまう。部屋の窓ガラスがガタガタと震え、雨足が強く
なってくる。運の悪いことに、現実の天気も、ホラー映画
のなかと同じになってしまっている。
「やっぱりチャンネルを変えればよかった……」
 しかし、どれだけ後悔しても、遅い。
 落ち着くまでリビングに行こうかと考える。きっと誰か
がいるかもしれない。だが、そこまでは長く暗い廊下を進
まなければならないし、人が確実にいる保障などない。
「そうだ……」
 きっとシュウならば部屋にいるはずだ。それにきっと彼
なら、眠っているに違いない。邪魔にならないように、部
屋の隅に滞在させてもらって、落ち着いたらそっと部屋を
出ればいい。ユイは恐ろしさに震える手で枕を抱えると、
シュウの部屋を目指した。小走りで駆けて行くと、彼の部
屋の前まではあっという間についてしまう。
「……シュウさん」
 扉をノックするが、返事はない。
 恐る恐る部屋の扉を開けてみると、彼はベッドのうえに
仰向きになって瞼を閉じていた。きっと音楽を聴いている
のか、眠っているのかしているのだろう。
「少しの間、部屋にいさせてください」
 ユイはそう呟くと、シュウの眠っているベッドの横に行っ
て膝を抱えた。
 相変わらず天気は崩れたままだ。窓はガタガタと震えて
いて、雨足も強かったが、ひとりで部屋にいるよりも、恐
ろしさは感じない。
 三十分もすれば、きっと脳裏にこびりついたままの光景
が薄れるだろう。そう願って、ユイは抱えてきた枕に顔を
埋める。ふかふかの枕はとても気持ちがよくて、うとうと
と微睡み始めてしまう。
「……ちょっと、あんた……」
 不機嫌な声が聞こえて、ユイはビクリと身体を引き攣ら
せた。
「人の部屋にいきなり入り込んで、なにやってるわけ?」
 彼が寝ている間にお邪魔して、気づかれない間に去ろう
と思っていたのだが、さすがに失礼だったらしい。
「……すみません。怖い映画を見てしまって」
 ユイは恐る恐る彼を振り返る。シュウは気だるげに寝転
んだまま、こちらを一瞥していた。
「へえ? いつもそんな言い訳で夜這いしてるんだ。普段
は純情ぶってるくせに、とんだ淫乱だな」
「違いますっ。本当に……」
 ユイは夜這いしたつもりはないし、嘘も言っていない。
「あんたの言っていることが、真実だったとしても……。
……映画に怯えて、ヴァンパイアの部屋にくるなんて、ど
うかしてるんじゃないの」
 確かにその通りだ。映画は作り物なのだ。しかし、シュ
ウは血を奪うヴァンパイア。それなのに、いつの間にか彼
らと生活するうちに、どこか感覚がずれてしまったのかも
しれない。
「でも……」
 ユイがさらに言い訳しようとすると、シュウは気だるげ
に命令する。
「……いいから、邪魔。……騒ぐなら出ていけよ」
 ここには置いてもらえそうにない。部屋の主が嫌がって
いるのに、居座るわけにもいかないだろう。
「すみませんでした」
 謝罪してから、ユイが枕を抱えて出て行こうとすると、
シュウが声をかけてくる。
「……どこに行く気?……」



        ......Coming Soon 【こんばんのおかずなあに?】


author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 16:15
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PourAmour
PourAmour


【PourAmour未完成交響曲−ジャン×優那−より抜粋】



 白樺町に建てられた名門アヴニール音楽院。そこ
に通っていたW6(ワルロク)と呼ばれていた問題
児たちが卒業して、五年が経とうとしていた。
 彼らは各々のトラウマや困難を乗り越え、名だた
る音楽家として活躍している。 
 一介の司書だった西野優那が、臨時講師として彼
らの担任をしていたなんて、今となっては誰も信じ
られないぐらいの成長ぶりだ。だが、W6たちは帰
国するたびに、今も変わらず優那のもとへ訪れてく
れている。
 ――そんなある日。
 商店街で買い物を済ませた優那が、自分の部屋に
戻ろうとしていたとき、漆黒のリムジンが道路脇に
停車した。優那は怪訝に思って、駆け足で去ろうと
する。だが、中から出てきた黒服たちに取り囲まれ、
さらにはハンカチで鼻と口を押えられて、強引に車
内に連れ込まれてしまう。
 ハンカチには、なにか液体が染み込まされていた
らしく、ツンとする匂いが鼻孔を差す。その匂いを
嗅ぐまいと抗っていた優那だったが、いつまでも息
を止めることはできない。
 結局はその液体の匂いを嗅いでしまって、気づけ
ば意識を失ってしまっていた。
          *
 頭がズキズキと痛む。軽い酩酊感に見舞われなが
ら瞼を開く。
 鼻孔を擽るのは潮の匂い。波の音が耳に届く。
 そして開け放たれた大窓からは、抜けるような青
空と、紺碧に輝く海が見えた。
 葉の色の濃いヤシの植えられたテラスデッキの向
こうはもう海だ。まるで南国の海のうえに立ってい
るかのような光景に息を飲む。
「……ここ、どこ……?」
 呆然と呟くと、甘い声が響いてくる。
「やっと起きてくれたんだね。先生」
 テラスから優雅な足取りで現れたのは、優那の教
え子のひとりであるジャン・フェリックス・ヴァロー。
生徒だった頃にはヴィオラを専攻していた彼は、今
では指揮者兼作曲家として世界に名を馳せていた。
「……もしかして、助けてくれたの?」
 見知らぬ男たちに拉致されそうになったことを思
いだし、尋ねる。すると彼は曖昧に笑って見せた。
「残念ながら」
 助けてくれたわけではない。だとすれば、どうし
て彼はここにいるのだろうか。
「貴女をここに呼んだのは、オレだよ」




        ......Coming Soon 【PourAmour】


author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 16:23
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水アソビ
水アソビ


【あまい休日−蛟×みこと−より抜粋】




「そろそろ行こう。バスが来る時間だ」
 蛟はみことの腰を抱く格好で寄り添い、バス停まで歩い
てくれた。
 ほどなくしてやってきたバスに乗り込むと、休日だとい
うのに、バスは込み合っていた。
 まるで満員電車にでも乗っているかのような窮屈さだ。
 蛟は自分の身体で庇うようにして、みことの周りに空間
を開けてくれている。
 だが、身体が密着することは避けられない。
 気恥ずかしい思いで堪えていると、お尻の辺りになにか
モゾモゾとした感触がした。
「……?」
 気のせいだろうか。
 そう思って、黙っていると、手はスカートのなかに差し
込まれて、ショーツや太腿を撫でてくる。
「……っ!」
 一瞬。蛟が触れてきているのだと思って顔が熱くなった。
 しかし指先の太さや感触がまったく違う。
 みことは、泣きそうな顔で蛟を見上げた。
「どうした?」
 蛟は片手で手すりに掴まりながら、もう片方の手で抱き
しめてくれる。
 高潔な蛟が痴漢などするはずがない。やはり別の者が触
れているらしい。
「……あ、あの……」
 痴漢の手の動きは、次第に大胆になってくる。
 お尻を撫で回し、下肢の中心にある花芯を、布越しに触
れてくる。
「……っ」
 みことは恐怖のあまり声がでなかった。ただ瞳を潤ませ
ながら、蛟を見上げるだけだ。
「み、みこと君?」
 蛟は驚愕した眼差しで、みことを見下ろしている。
「……手が……」
「手?」
 蛟の身体によりかかる格好で、みことはガタガタと震え
出してしまう
 そうしている間に、痴漢の手がショーツの布地をずらし
て、秘裂の間に触れてくる。
「いや……っ」
 そう声を上げたとき、身体のなかの水が引いていくのを
感じた。貧血に似た症状。恐怖のあまり枯渇を起こしてし
まったらしい。
「……みこと君っ!?」
 みことの様子のおかしさから、蛟はやっと痴漢の手に気
づいたらしい。




        ......Coming Soon 【水アソビ】


author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 17:12
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LoveSickness
アムネシア



【Platonic love−イッキ×ヒロイン−より抜粋】



思いがけない言葉に、目を瞠った。それと同時に、いき
なりお姫様抱きでかかえあげられてしまう。
「えっ」
 抗う間もなかった。イッキは、軽々と身体を抱き上げた
まま、部屋に向かっていく。
「お、おろしてください。重いですから……っ」
 だが手は放してもらえない。
「君は軽いから気にしないで。それにもう目的の場所には、
着いたから大丈夫だよ」
 ようやく身体をおろされた場所はベッドだった。
 おもわず生贄の少女のように、胸の前で手を固く組み、
身体を強張らせてしまう。
 この状況のいったいなにが、大丈夫だというのか。
 まったく大丈夫な気がしない。
 呆然として見上げると、そこには整った顔を歪ませ、薄
く笑うイッキの姿があった。
「……まだ、眠るような時間ではないです……けど……」
 こっそりとベッドから抜け出そうとした。だが、覆いか
ぶさるように両脇に手をつかれてしまい、逃げられない。
「今夜は君を眠らせるつもりはないから、安心して」
「……っ!?」
 コクリと息を飲む。
「イッキさん……」
 なんの意図があって、こんな真似をするのか。聞こうと
すると、ワンピースのリボンをゆっくりと解かれていく。
「僕が今から、なにをするのか、知りたい?」
 その言葉に、真っ赤になって俯いてしまう。
「……あの……」
 解らないわけではない。ここに来た当初は臆病になって
躊躇していたが、最近は毎晩一緒に眠っているし、イッキ
に触れられるも、これが初めてではない。
 解っているのだが、唐突過ぎて戸惑ってしまう。
 それに、なにかいつもと様子の違うイッキの姿が気にか
かる。
 狼狽する間にも、スカートの裾が捲り上げられて、赤い
チェックのタイツを纏った太腿を撫で上げられた。
「……や……」
「僕に触れられるのが、嫌ってことかな」
 イッキに触れられることが嫌なのではない。そうではな
くて……。
「……違……、は……」
 恥ずかしいのだと訴えようとした。だが、緊張のあまり
言葉が出ない。
「恥ずかしい?」
 たじろいでいると、イッキに尋ねられ、コクリと頷く。
 顔から火を噴きそうだ。せめて部屋の灯りを消して欲し
かった。それよりも、お風呂に入りたくて仕方がない。
 汗ばんだ身体を、綺麗なイッキに見られるなんて、恥ず
かしすぎる。
「性急な男は嫌い?」
 そんな尋ね方をしないで欲しかった。ここで拒めば、イッ
キのことを嫌いだということになってしまう。
「……」
 躊躇いながら、微かに首を横に振る。すると、その行為
を了承ととられたのか、顔が近づけられた。
 唇が重なりそうになる寸前、声をあげる。
「待って……くださ……い」
 震える声で訴えると、イッキは口づけをやめてくれた。
「どうしたのかな。キスしたくない?」
「違……ん、んぅ……」
 それは違う……と、否定しようとしたが、唇を奪われて
言葉が紡げない柔らかな感触が擦れあい、ジンとした疼き
が身体を走る。
「それとも……君は、僕と一緒にいたくない?」
 どうして、そんなことを聞かれるのか解らなかった。
 一緒にいたくないなんて、思うわけがないのに。
「い、一緒にいたいです」
 震える声で訴える。
「それが、心からの気持ちだと嬉しい」
 イッキの声は、どこか淋しげに聞こえた。
「嘘なんて……」
 心からそう思っている。なにがきっかけで疑われてしまっ
たのか、さっぱりわからなかった。
「……それなら、受け入れてくれるよね」
「えっ!?」
 腹部で布地の重なっていたワンピースを、そのまま胸の
辺りまでたくし上げられてしまう。
 イッキは器用に、ブラまで一緒に引き上げたため、ふん
わりとした胸の膨らみが露わになった。
「……やっ……!」
 恥ずかしさのあまり、胸を両腕で隠した。部屋の灯りは
煌々としている。そんな場所で、胸なんて露わにできない。
「見せて」
 だが、イッキは信じられない願いを告げてくる。


        ......Coming Soon 【LoveSickness】


author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 17:20
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洞房華燭
洞房華燭




【国色天香−曹操×関羽−より抜粋】





 
 ――優しい眼差しが、脳裏から消えない。
 乱世の奸雄と名高い曹操に花嫁として望まれている関羽
は、火照る頬を押さえて、夕暮れ刻の庭園を歩いていた。
 茜色に染まった空の色が、頬の熱を隠してくれればいい。
 そう願いながら。
 だが、そんな甘やかな気分を妨げる声が響いてくる。
「貴様っ! 今日こそは言わせて貰う」
 激高した様子で、現れたのは曹操を主君として深く忠誠
を誓っている武将、夏侯惇だった。
 彼は猫族のことを蔑み、毛嫌いしていたのだが、最近で
は存在を認め、以前と比べものにならないほど友好的になっ
てくれていた。だが、今は以前と同じように強張った表情
を向けられている。
「どうかしたの?」
 気づかない間に、彼になにか悪いことでもしてしまった
のだろうか。関羽は不安になりながら尋ねる。
「曹操様をたぶらかすのは金輪際やめて貰おうか!」
 とつぜん告げられた言葉に、あ然となる。
 関羽は曹操をたぶらかしたことなど、いちどもない。
 むしろ熱烈な求愛を受けて口説かれた立場だ。
 言いがかりはやめて欲しかった、関羽は戸惑いながら、
夏侯惇へと言い返す。
「私は曹操をたぶらかしてなんていないわ」
 むしろできるわけがないと思いながら、関羽は首を横に
振る。
 そのとき、夏侯惇の視線が、一点を見つめていることに
気づいた。視線の先にあるのは、関羽の頭の上。そこにあ
るのは髪と猫耳だけだ。
「これがどうかした?」
 茶色い毛並みの耳を、そっと撫でながら尋ねる。
 すると、彼は目を剥いて怒鳴ってくる。
「そうだ! その耳がいけない」
 文句を言われても、猫耳は生まれついてのものだ。
 どうしようもない。
 関羽がしょんぼりと俯くと、微かに耳が下がる。
「貴様、この俺までもたぶらかす気かっ」
 ブルブルと震えながら、夏侯惇が声を荒げた。
「え、えぇ!?」
 どうして詰られなければならないのか、関羽にはさっぱ
り解らない。
 探るような目で夏侯惇を見つめると、ふと、彼の顔が赤
いことに気づいた。
「……もしかして、夏侯惇……熱でもあるの?」
 だとすれば熱のせいで、変なことを口にしていてもおか
しくはない。
 そう思いながら、彼の額に触れようとした。
 ――しかし。
「関羽」
 階上から、曹操の声が聞こえ、関羽は振り仰ぐ。
 曹操は廂の外にある通路から、ふたりを見つけて声をか
けて来たらしい。
「すぐに私の部屋に来るんだ」
「わかったわ」
 関羽が頷くと、曹操は冷ややかに夏侯惇を一瞥して、去っ
ていく。
「……曹操様……」
 殺気すら感じるような眼差しを向けられた夏侯惇は、今
度は真っ青になってしまっている。
「俺があのような瞳で見られたのも、貴様のせいだっ」
 責任転嫁されても、困ってしまう。関羽はなにもしてい
ない。ただ夏侯惇が熱でもあるのかと思って、心配しただ
けなのだから。
「いったいなにがあったの? 話して貰わないとわからな
いわ」
 すると、夏侯惇は忌々しげに俯き、口を開いた。
「つい数刻前のことだ。俺は曹操様のもとに書簡を持って
いったのだが……。そこであの方が、眠っているお前を抱
き締めて、その耳に齧りついている姿を見たんだ!」
 一瞬聞き間違いかと思った。
 だが、思い返しても見ても、『耳に齧りつく』と聞こえ
た。
 夏侯惇は真剣そのものだ。聞き間違いでないなら、彼が
目にしたものが誤解なのではないだろうか。
「見間違いじゃ……」
 いくら想像しても、曹操が関羽の猫耳に齧りついている
姿など想像できない。それとも、夏侯惇が熱を出している
せいではないだろうか。
「貴様、隻眼だからと愚弄する気か!? 俺は曹操様のこ
とで見誤ることなどない」
 確かに、夏侯惇の曹操への忠誠は、驚かされるばかりだ。
 そんな風に言われては、間違いではないように思える。
「ぜんぶ貴様が悪いっ。そのひょこひょこした脆弱な猫耳
で、曹操様をたぶらかしているせいに違いない!」
 関羽は驚きと呆れで、返す言葉もない。
 猫耳なら、一族のみんなが持っているものだ。めずらし
いものではない。
 曹操がこんなものでたぶらかされるとは思えなかった。
「私、曹操に聞いてくるわ」
 関羽は踵を返して、邸の中へと向かっていく。
「おいっ! 待て! 話はまだ終わってないぞ」
 背後からは、苛立った様子の夏侯惇の声が聞こえていた。
 曹操のもとに向かいながら、関羽は目覚めたときのこと
を思い出す。
 寝台に横たわっていた彼女を、曹操はいつの間にか、自
分の身体に凭れかけさせ、後ろから抱き締めてくれていた
のだ。
『目覚めたのか。私の花嫁』
 愛おしげな眼差し。甘い声音。
 抱き締められる温かな感触。鼻腔を微かに擽る香り。
 そのすべてが幸せで、愛しくて、関羽は頬が火照るのを
止められなかった。
 見つめられる視線が気恥ずかしくて、思わず庭園に逃げ
てしまった。だが、彼女が目を覚ます前に、曹操が耳を噛
んでいたなんて、信じられない。
 指で確かめてみるが、痛みはなかった。やはり夏侯惇の
見間違いだとしか思えない。
「確かめればいいだけ」
 関羽は曹操のもとへと急いだ。
 
 
 
 


        ......Coming Soon 【洞房華燭】


author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 16:34
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きみはぼくにチェックメイト

きみはぼくに小説





【雨の中のJealousy−四ノ宮那月×七海春歌−より抜粋】


 
 ――那月は大切な話があると言っていた。
 どんな風に別れを告げられるのだろうか?
 解りきっていることなのに、その瞬間が恐ろしくて、足
が竦んでしまいそうになる。
 次に電話を取ったときが、恐れていた瞬間になるのかも
しれない。だがよく考えてみれば、映画を見る前に携帯を
マナーモードにしたままだ。ずっと着信音が聞こえないの
は当然だ。
 もう着信履歴や留守電には、那月からの連絡が入ってい
るのかもしれなかった。
「……」
 恐る恐る携帯の画面を、そっと見つめる。
 するとそこには、予想通り那月からの履歴がたくさん残っ
ていた。メールも着ているようだ。
「……すみません……。今は……」
 濡れそぼった服の冷たさと、予期できる恐ろしい状況を
前にガクガクと身体が震えてしまう。
 寮に戻りたくなかった。
 電話が繋がらないため、那月が直接別れを告げにくる可
能性があるからだ。
 今はまだ心の準備ができていない。
 せめて少し落ち着くまで、時間が欲しい。
 だが、こんなびしょ濡れのままでは、どこにも行くこと
はできない。
「那月くんは、……お忙しいみたいですし……」
 約束の場所に来られなかったのだ。きっと今日は、会い
になど来ないだろう。
 自分にそう言い聞かせて、春歌は電車を降りると、とぼ
とぼと寮へと戻っていった。
 
          ◇ ◇ ◇
 
 エレベーターホールから、階上へと向かうと、重い足取
りで部屋に向かう。
 そして、春歌がバッグから部屋の鍵を取りだそうとした
とき――。
「ハルちゃん! 無事だったんですね」
 そう言って駆け寄ってくる那月の姿が目に映る。
「あ……」
 春歌は思わず逃げだそうとしてしまう。だが、腕が掴ま
れてしまい、引き留められてしまう。
「ハルちゃん! 待ってください!」
 その拍子に、バッグを取り落とし、那月の熱愛がスクー
プされた雑誌と壊れたバッグチャームが中から飛び出して、
床に落ちてしまう。
「……これは……」
 床に落ちたものを見つめて、那月が顔色を変える。
 春歌も息が止まってしまいそうだった。
「あ、あの……。せっかく戴いたものを壊してしまってす
みません」
 春歌はラインストーンがひとつ欠けたバッグチャームを
慌てて拾って、雑誌も表紙を隠すように胸に抱えた。
「……な、なにもおっしゃらないでください。……解って
いますから……」
 自分のような平凡な女の子が、輝かしいアイドルである
那月の傍に、少しの間だけでも一緒にいれたことを感謝し
なくてはならないだろう。
 引き留めたり、縋りついたりすれば、那月を困らせるだ
けだ。
 春歌は、俯きながら那月の傍を通り過ぎ、部屋に駆け込
もうとした。
 すると、彼が後ろから追ってくる。
「話を聞いてください。ハルちゃん!」
 これ以上、那月と話をしていると、泣いてしまいそうだっ
た。ガクガクと膝が震えていた。
 本当は立っていることすら、苦しい。
 今すぐ、泣き崩れてしまいたいのを、懸命に堪えている
というのに。
「だ、大丈夫ですから……」
 そう言って、部屋のドアを閉めようとするが、那月は隙
間に足を入れて、動かせなくしてしまう。
「誤解なんですっ。だから、僕の話をちゃんと聞いてくだ
さい!」
 
          ◇ ◇ ◇
 
 那月は勝手知った様子で、春歌の部屋を横切って、バス
ルームへと向かっていく。
 そして、バスタブにお湯を貯める準備をすると、バスタ
オルを手に戻ってくる。
「僕に拭かせてください」
 ふわりと、春歌の頭から包み込むようにして、タオルを
被せた。
「こんなにびしょ濡れになって……、身体も冷たくなって
る。僕のせいですね。すみません。本当はあの電話で、三
十分ほど遅れると言いたかったんですが、電波が悪いとこ
ろだったのか、繋がらなくて……」
 てっきり別れを切り出されるのだとばかり思っていたの
に、那月はいつもと変わらず優しい。
 そのことがいっそう春歌の不安を掻き立てた。
「あなたが無事で良かった。事故にあったんじゃないかっ
て、気が気じゃなかったんですよ」
 だが、彼は心から春歌を心配しているように見える。
 一瞬期待しそうになる。だが考えてみれば、答えは簡単
だ。那月は誰が相手でも、思い遣りをもって接していた。
 他に好きな相手がいるのなら、そんな優しさは傷を深め
るだけだというのに。
「ご心配かけてすみません。映画を観ていたのでマナーモー
ドにしていたのです」
 着信に気づかなかったことを詫びると、那月にすかさず
聞き返された。
「誰とですか?」


        ......Coming Soon 【きみはぼくにチェックメイト】
author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 11:07
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アルケミスタの鳥籠
アルケミスタ小説



【アルケミスタは花嫁を翻弄する−ジョーリィ×フェリチータ−より抜粋】




「なにをすればいいのか……ぐらい、愚かではない君なら
解りそうなものだが?」
 そんな言われ方をしたら、逃げられなくなってしまう。
 真っ赤になったままフェリチータは、首を伸ばす。
「……ん」
 そして、ジョーリィの頬に、チュッと口づけた。
「違う」
 呆れたように呟かれる。
 フェリチータがジョーリィだけしか見えていないことを
証明するのには、頬へのキスだけでは足りないらしい。
 確かに、これでは親愛を示すものと変わりがない気がす
る。今度は躊躇いがちに、ジョーリィの唇に自分のそれを
重ねる。そして、すぐに放した。
「……触れるだけか」
 まるで子供の戯れだとばかりに、微かに笑われ、フェリ
チータは、次ぎに深く口づける。
「ん……っ、んぅ……」
 小さな舌を伸ばし、ジョーリィの形の良い官能的な唇の
間から、彼の口腔を探っていく。
 ヌルついた舌を擦り合わせ、彼がいつもするように、唾
液を吸ったり、唇を甘噛みする行為を繰り返した。
 ――しかし。
「拙いな」
 きっぱりと断言され、泣きそうになってしまう。
 灼けそうに頬が熱かった。恥ずかしい気持ちを必死に隠
して頑張っているのに、ジョーリィにとっては、物足りな
いキスだったらしい。
「だが、これなら他の男に調教されていたわけではなさそ
うだ」
 フェリチータは、ジョーリィとの結婚が決まってから、
男性に関して親愛のキスすらしたことがない。
 まだ疑われていることが悔しくて、彼の身体の上から降
りようとした。
「そんなことばかり言うなら、もう帰る」
「どこに?」
 聞かれなくても、執務室に決まっている。まだ仕事は山
積したままだ。そう言い返そうとする。だが、逃がさない
とばかりに、ジョーリィが背中に腕を回してくる。
「君の居場所は、私の隣だろう?」
 いつものジョーリィは、ファミリーに迷惑をかけないよ
うに、フェリチータには仕事を優先させてから、ふたりの
時間を作るようにしていた。
 それが彼がいちばん大切にしているモンドのためでもあ
るからだ。
 だが、噂について執拗に追及してきたことに関してとい
い、今日のジョーリィはどこかおかしい。
 熱でもあるのだろうか。
 そう考えて、彼の額に手を伸ばした。しかし、体温に異
常はない。サングラス越しに、うっすらと彼の『スティグ
マータ』が見える。別人であるということもないようだ。
「……私たちは、久し振りに顔を合わせたんだ。ゆっくり
すればいい」
 フェリチータがいつもツインテールに結んでいる赤毛を、
ジョーリィが優しく撫でる。その感触が心地よくて、ずっ
と不安に思っていたことが、口を吐いて出てしまう。
「ジョーリィ。私と会えなかった間に、少しぐらいは寂し
いって思ってくれた……?」
 フェリチータはずっと彼に会いたかったのだ。
 しかし、平然としているジョーリィは同じように思って
いるようには見えない。そのことが、愛情の差に見えてな
らなかった。
「残念だが、それはないな」
 きっぱりと断言され、目の前が真っ暗になる。
「……っ」
 ジョーリィはフェリチータがいなくても構わないのだ。
 そう思い知ったからだ。
 彼女はジョーリィの身体の上から、逃れようとした。
 深く傷ついていると、ジョーリィに気づかれたくなかっ
た。
「寂しいという感傷に浸る余裕などない。君の周りに蔓延っ
ている邪魔な羽虫たちに、苛立っていただけだ」
 不機嫌そうにジョーリィが言ってのける。
「それって……」
 嫉妬、してくれているのだろうか? 
 今日のジョーリィは様子がおかしいのも、そのせいだと
思っていいのだろうか。
 フェリチータが目を丸くしていると、とつぜん彼女のスー
ツのネクタイが引き抜かれた。
「くだらない話は終わりにしよう」
「あ……」
 ジョーリィがどういう意図でネクタイを引き抜いたのか
解らないほど、フェリチータはもう子供ではない。
 カァッと頬を染めていると、その表情を愉しげに眺めら
れた。そして、低く艶やかな声で囁かれる。
「おしおきの時間だ。フェル」
 ビクリと身体が引き攣る。
「悪いことなんて、なにもしてない」
 喧嘩して距離を置いただけだ。
 お互いの価値観が擦れ違ったことに対して、一方的に責
められる謂われはない。
「……なにも……ね」
 なにかしただろうか。頭を巡らせていると、考える前に
ジョーリィが忌々しげに呟く。
「私と顔を合わせずに、他の男とばかり話していた君に、
罪がないとでも」
 まるでフェリチータが浮気でもしていたかのような言わ
れようだ。
「私は執務をしていただけで……」
 疚しいことはなにもしていない。
「ほう?」
 それなのに、ジョーリィを前にしていると、罪悪感に苛
まれてしまう。
「それだけではない。変な噂まで流され、私の心を痛く傷
つけただろう」
「……噂を聞いて、ジョーリィは傷ついたの?」
 淡い期待に、胸が高鳴る。嫉妬してくれたのだろうか。
 じっと彼を見つめる。
「さてね」
 だが、はぐらかすように、ニヤリとした笑みを返される
だけだった。
 やはりジョーリィは傷ついているようには見えない。
「教えてくれてもいいのに……」
 フェリチータは、唇を尖らせながら、ふいっと顔をそむ
けた。すると、身に纏っているシャツのボタンが、彼の長
い指でひとつづつ外され始めてしまう。
「……あ……。ジョーリィ……」
 スーツのジャケットを押さえるコルセットの紐が解かれ
たとき、フェリチータは、コクリと息を飲んだ。
「私の心を掻き乱すとは、悪いお嬢様だ」
 心を乱されているのは、フェリチータの方だ。
 いつも、いつも、いつも……。
 ジョーリィは人の悪い笑みを浮かべて、自分の心の内は
みせようとしない。
 フェリチータは【恋人たち】の能力のせいではなく、彼
の心を知りたいと強く願っているのに……。
 ふと、フェリチータの脳裏に、先ほど彼の心をタロッコ
の能力で暴いてしまったときのことが思い出される。
 卑猥な行為を求めるジョーリィに、嬉々として応じてい
自分の姿だ。ジョーリィは、本当にあんなことを望んでい
るのだろうか。
 フェリチータは羞恥に頬を赤く染めながら、ジョーリィ
を窺う。
「物欲しげな顔で見ているな。……飢えているのか」
「……違……っ」
 飢えてなどいないし、物欲しげに見たつもりはない。
 首を横に振って、ジョーリィの言葉を否定しようとした。
 だが、そんなことぐらいでジョーリィの行動を止められ
るわけがなかった。
「お望み通り、満たしてやる」





        ......Coming Soon 【アルケミスタの鳥籠】
author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 11:15
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【Ill-humored butterfly−アルバロ×ルル−より抜粋】



「そんなに怒らなくてもいいと思うんだけどなぁ」
 悪びれもせず、そう言ってのけるアルバロの隣でルルは、
膝を抱える。
「人間ってほら、忘れることもあるよね」
 確かにその通りだった。しかしアルバロの場合は、わざ
とそうしているとしか思えないのだから、しょうがない。
「知らないっ」
 拗ねた様子で膝を抱えながら、ルルが湖の湖面を見つめ
ていると、アルバロの溜息が聞こえた。
「つまらないな。……先に帰らせて貰うよ」
 その言葉に、ルルが慌てて顔を上げるが、すでにアルバ
ロの姿はない。
 足音は聞こえなかった。まだそこらにいるに違いない。
 だが気配を消され、ルルはアルバロの姿をまったく見つ
けることができなかった。
「アルバロッ!」
 声を上げるが、彼からの返事はない。
 しゃくりを上げて、ルルが泣きそうになったときだった。
 いきなり頭の上に、キャンディの包みが投げつけられる。
「痛っ」
 ピンク色の包装紙に包まれた、大きなキャンディを拾い
上げると、ルルは顔を見上げた。
 するとそこには、木の枝に足を伸ばして座っている、ア
ルバロの姿があった。
 どうやって一瞬にして、そこに登ったのか、分からなかっ
た。不思議に思いながら、彼を呼ぶ。
「アルバロッ」
 しかし下りてくる気配はない。
「俺を捕まえられたら、遊んでやってもいいよ」
 そう言いながら、アルバロは瞼を閉じてしまう。
「分かった」
 ルルは少し考え、太い木の幹を揺らそうとするが、びく
ともしない。仕方なく木にしがみつき、ちょっとずつ木を
よじ登り始める。
「本気?」
 瞼を開けたアルバロは少し驚いた様子で、ルルを見下ろ
していた。
「捕まえればいいんでしょう?」
 小さなときに、木に登ったまま降りられなくなってから
は、一度も登ったことはなかった。でも少しずつではあっ
たが、アルバロのいる場所まで近づくことができる。
 しかし、慣れていないせいか、ルルは足を滑らせて、ず
り落ちそうになってしまう。
「あっ!」
 木の根に頭から落ちることを想定して、思わず固く瞼を
閉じると、ふいに腕が引かれる。
 そしてふわりと身体が、引き上げられた。
 アルバロが落ちる寸前に、捕まえてくれたらしかった。
 なにか魔法の詠唱が微かに聞こえた気がしたので、アル
バロは魔法を使ったのだろう。
「ありがとう、アルバロ」
 ルルが礼を言うとアルバロはふたたび木にもたれ掛かる。
「はぁ……」
 だが呆れた様子で溜息を吐くアルバロに、ルルはぎゅっ
としがみついた。
「つ、捕まえたっ」
「助けてあげたのに、そういうこと言うんだ?」
 引き上げてくれたのは確かだが、ルルがアルバロを捕ま
えたことには違いなかった。
「だって……」
「そんなに俺と遊びたいんだ?」
「うん!」
 コクリと頷くと、彼は口元だけを綻ばせて、笑顔を浮か
べてみせる。
「俺は君と遊ぶ気分じゃなかったんだけどなぁ。君じゃ、
やりたいことの相手をしてくれないし……」
 ルルは困惑しながら首を傾げる。
「アルバロはなにがしたいの?」
「実は……、お腹が空いてるんだよね」
 じっと探るような目つきで見つめられ、ルルはポケット
の中のビスケットを差し出した。
「これでいい?」
「うーん。それじゃお腹いっぱいにはなれないな」
 木の下で投げつけられたキャンディも差し出すが、彼は
首を横に振る。
「それもいらない」
「じゃあ、食堂に行く?」
 夕食には早い時間だったが、料理をしてくれるプーペに
言えばなにか作って貰えるに違いなかった。
「それとも、カフェがいい?」
 本当なら、今日は一緒に街に出て新作のお菓子を食べる
はずだったのだ。
 日は沈んではいないので、まだ間に合うに違いなかった。
「どっちもいらないな。俺が食べたいのは……可愛い女の
子だし」
 その言葉に、きょとんとしたルルは首を傾げる。そして
遅れて目を瞠った。
「た、食べるの? 人を?」
 ガラス玉のように感情のないピンク色の瞳が、じっとこ
ちらを見つめていた。
 思わず身体を竦めるルルが、抱き寄せられる。
「そうそう。君みたいな子とか、食べると美味しそうだよ
ね」
 アルバロはルルの首筋に顔を埋めてくる。
「っ! わ、私は食べても美味しくないと思うの」


        ......Coming Soon 【Are you ready for GAME?】

author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 14:14
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田舎娘とはいすぺっくだ〜りん
田舎娘とはいすぺっくだーりん



【旦那様は嫉妬深くて傲慢で!?−宮ノ杜勇×浅木はる−より抜粋】



「……」
 おぼろ亭へと連れ戻されたはるは、勇の冷たい視線に晒
されることとなった。
 彼は無言のまま、酒を煽り続けている。
「あの……勇様。私はそろそろ家に戻りますね」
 立ち上がろうとするのだが、すぐに腕が掴まれ、引き戻
されると、隣に座らされてしまう。
 一体、同じことをいくら繰り返しただろうか。
「遅くなると、皆が心配しますので……」
 はるのそんな言葉にも、勇は耳を貸そうとしない。
「お前の家族には、ここに泊まると言づけてある。早く食
事を済ませろ」
 勝手に決められてしまっていたことに、はるは困惑を隠
せない。
 実家には親戚も多く集まっている。妹たちはまだ幼い。
 母ひとりでもてなしていては大変だ。
「はい」
 返事をすると、はるは急いで食事をし始める。
 食事が終われば、すぐに実家に帰るつもりだったからだ。
 その姿を横目に見ながら、勇はますます不機嫌になって
いく。
「ご馳走様でした」
 料理は本当においしいものだった。宮ノ杜家の豪華な食
事も良いが、幼い頃から食べている地産のものはまた格別
な気がする。
「それでは帰りますね」
 勇の隙をついて、はるが立ち上がろうとするが、直ぐさ
ま腕が掴まれてしまう。
「……どこに行くつもりだ。先ほどから聞いていれば、
『家に帰る』だと? お前は私の妻になったのだ。家は宮
ノ杜のはずであろう」
 言われてみればその通りだった。
 はるははっとした後、俯いてしまう。
「申し訳ございません。……それでは実家に行かせて戴き
ます……」
 これで問題はないはずだ。
 ――しかし。
「許さん」
「えっ」
 言い方にまだ問題があったのだろうか。考え倦ねている
と、勇ははるの身体を畳に強く押しつけてくる。
「お前は目を放すとすぐに、他の男の元へと飛び込むよう
だからな。明日、俺がお前の実家に向かうときまで、宿か
ら出すつもりはない」
 はるは、勇以外の男の胸に飛び込んだことなどなかった。
 なにを言っているのか分からず、首を傾げたとき。
 ふと先ほど、金居が転びそうになった彼女を助けたこと
を思い出す。
「あれは転びそうになったのを助けて戴いただけです」
 慌てて言い訳する。
 ――しかし。
「そんな偶然があるか。待ち合わせていたのだろう」
 勇に剣呑な眼差しを向けられ、はるは息が止まりそうに
なる。
「違います」
 金居には偶然出会っただけだ。あの場にいたなんて、は
るが知る由もない。
「だいたい、夫である俺に無断で屋敷を出るなど、なにを
考えておるのだ」
「だから、言おうとしたのに、勇様が話を聞いてくれなかっ
たんじゃありませんか」
 何度もはるは、法事のことを話そうとしていた。それを
咎められるのは心外だった。
「話が出来ぬなら、家を出るな」
 横暴な物言いに、だんだん腹が立ってきてしまう。
「無茶を言わないでください」
 はるは眉間に皺を寄せながら、強い口調で言い返す。し
かし勇は、反省するどころか、さらに横柄な態度で返して
くる。


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author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 11:56
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