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アルケミスタの鳥籠
アルケミスタ小説



【アルケミスタは花嫁を翻弄する−ジョーリィ×フェリチータ−より抜粋】




「なにをすればいいのか……ぐらい、愚かではない君なら
解りそうなものだが?」
 そんな言われ方をしたら、逃げられなくなってしまう。
 真っ赤になったままフェリチータは、首を伸ばす。
「……ん」
 そして、ジョーリィの頬に、チュッと口づけた。
「違う」
 呆れたように呟かれる。
 フェリチータがジョーリィだけしか見えていないことを
証明するのには、頬へのキスだけでは足りないらしい。
 確かに、これでは親愛を示すものと変わりがない気がす
る。今度は躊躇いがちに、ジョーリィの唇に自分のそれを
重ねる。そして、すぐに放した。
「……触れるだけか」
 まるで子供の戯れだとばかりに、微かに笑われ、フェリ
チータは、次ぎに深く口づける。
「ん……っ、んぅ……」
 小さな舌を伸ばし、ジョーリィの形の良い官能的な唇の
間から、彼の口腔を探っていく。
 ヌルついた舌を擦り合わせ、彼がいつもするように、唾
液を吸ったり、唇を甘噛みする行為を繰り返した。
 ――しかし。
「拙いな」
 きっぱりと断言され、泣きそうになってしまう。
 灼けそうに頬が熱かった。恥ずかしい気持ちを必死に隠
して頑張っているのに、ジョーリィにとっては、物足りな
いキスだったらしい。
「だが、これなら他の男に調教されていたわけではなさそ
うだ」
 フェリチータは、ジョーリィとの結婚が決まってから、
男性に関して親愛のキスすらしたことがない。
 まだ疑われていることが悔しくて、彼の身体の上から降
りようとした。
「そんなことばかり言うなら、もう帰る」
「どこに?」
 聞かれなくても、執務室に決まっている。まだ仕事は山
積したままだ。そう言い返そうとする。だが、逃がさない
とばかりに、ジョーリィが背中に腕を回してくる。
「君の居場所は、私の隣だろう?」
 いつものジョーリィは、ファミリーに迷惑をかけないよ
うに、フェリチータには仕事を優先させてから、ふたりの
時間を作るようにしていた。
 それが彼がいちばん大切にしているモンドのためでもあ
るからだ。
 だが、噂について執拗に追及してきたことに関してとい
い、今日のジョーリィはどこかおかしい。
 熱でもあるのだろうか。
 そう考えて、彼の額に手を伸ばした。しかし、体温に異
常はない。サングラス越しに、うっすらと彼の『スティグ
マータ』が見える。別人であるということもないようだ。
「……私たちは、久し振りに顔を合わせたんだ。ゆっくり
すればいい」
 フェリチータがいつもツインテールに結んでいる赤毛を、
ジョーリィが優しく撫でる。その感触が心地よくて、ずっ
と不安に思っていたことが、口を吐いて出てしまう。
「ジョーリィ。私と会えなかった間に、少しぐらいは寂し
いって思ってくれた……?」
 フェリチータはずっと彼に会いたかったのだ。
 しかし、平然としているジョーリィは同じように思って
いるようには見えない。そのことが、愛情の差に見えてな
らなかった。
「残念だが、それはないな」
 きっぱりと断言され、目の前が真っ暗になる。
「……っ」
 ジョーリィはフェリチータがいなくても構わないのだ。
 そう思い知ったからだ。
 彼女はジョーリィの身体の上から、逃れようとした。
 深く傷ついていると、ジョーリィに気づかれたくなかっ
た。
「寂しいという感傷に浸る余裕などない。君の周りに蔓延っ
ている邪魔な羽虫たちに、苛立っていただけだ」
 不機嫌そうにジョーリィが言ってのける。
「それって……」
 嫉妬、してくれているのだろうか? 
 今日のジョーリィは様子がおかしいのも、そのせいだと
思っていいのだろうか。
 フェリチータが目を丸くしていると、とつぜん彼女のスー
ツのネクタイが引き抜かれた。
「くだらない話は終わりにしよう」
「あ……」
 ジョーリィがどういう意図でネクタイを引き抜いたのか
解らないほど、フェリチータはもう子供ではない。
 カァッと頬を染めていると、その表情を愉しげに眺めら
れた。そして、低く艶やかな声で囁かれる。
「おしおきの時間だ。フェル」
 ビクリと身体が引き攣る。
「悪いことなんて、なにもしてない」
 喧嘩して距離を置いただけだ。
 お互いの価値観が擦れ違ったことに対して、一方的に責
められる謂われはない。
「……なにも……ね」
 なにかしただろうか。頭を巡らせていると、考える前に
ジョーリィが忌々しげに呟く。
「私と顔を合わせずに、他の男とばかり話していた君に、
罪がないとでも」
 まるでフェリチータが浮気でもしていたかのような言わ
れようだ。
「私は執務をしていただけで……」
 疚しいことはなにもしていない。
「ほう?」
 それなのに、ジョーリィを前にしていると、罪悪感に苛
まれてしまう。
「それだけではない。変な噂まで流され、私の心を痛く傷
つけただろう」
「……噂を聞いて、ジョーリィは傷ついたの?」
 淡い期待に、胸が高鳴る。嫉妬してくれたのだろうか。
 じっと彼を見つめる。
「さてね」
 だが、はぐらかすように、ニヤリとした笑みを返される
だけだった。
 やはりジョーリィは傷ついているようには見えない。
「教えてくれてもいいのに……」
 フェリチータは、唇を尖らせながら、ふいっと顔をそむ
けた。すると、身に纏っているシャツのボタンが、彼の長
い指でひとつづつ外され始めてしまう。
「……あ……。ジョーリィ……」
 スーツのジャケットを押さえるコルセットの紐が解かれ
たとき、フェリチータは、コクリと息を飲んだ。
「私の心を掻き乱すとは、悪いお嬢様だ」
 心を乱されているのは、フェリチータの方だ。
 いつも、いつも、いつも……。
 ジョーリィは人の悪い笑みを浮かべて、自分の心の内は
みせようとしない。
 フェリチータは【恋人たち】の能力のせいではなく、彼
の心を知りたいと強く願っているのに……。
 ふと、フェリチータの脳裏に、先ほど彼の心をタロッコ
の能力で暴いてしまったときのことが思い出される。
 卑猥な行為を求めるジョーリィに、嬉々として応じてい
自分の姿だ。ジョーリィは、本当にあんなことを望んでい
るのだろうか。
 フェリチータは羞恥に頬を赤く染めながら、ジョーリィ
を窺う。
「物欲しげな顔で見ているな。……飢えているのか」
「……違……っ」
 飢えてなどいないし、物欲しげに見たつもりはない。
 首を横に振って、ジョーリィの言葉を否定しようとした。
 だが、そんなことぐらいでジョーリィの行動を止められ
るわけがなかった。
「お望み通り、満たしてやる」





        ......Coming Soon 【アルケミスタの鳥籠】
author:仁賀奈, category:パロ同人サンプル, 11:15
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